色を「塗る」のではなく「魅せる」

鞄色屋では、修理を手がける職人たちを “彩士(さいし)” と呼んでいます。
それは、ただの技術者ではなく――
一つひとつのバッグに命を吹き込み、
色彩の美しさを蘇らせる「色の演出者」としての誇りを込めた称号です。

素材を見極め、風合いを感じ取り、色を「塗る」のではなく、「整え、魅せる」こと。
鞄色屋の仕上がりが “自然で、違和感がない” と評される理由は、彩士一人ひとりが、色と本気で向き合っているからにほかなりません。

ここでは、そんな彩士たちの声をご紹介します。

彩士の画像1
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Interview 01 Furubayashi

繊細な補色を得意とする修理歴12年の職人。
ステッチを避ける補修や風合い仕上げなど、
高い集中力が求められる作業に定評。

Furubayashi

繊細な色調の補色やグラデーションの再現を得意とする職人です。淡い色や複雑なトーンの革は、補修の際にムラや違和感が出やすく、高度な集中力と技術が求められます。
ステッチを避けた補色や、ぼかしを効かせた境界の処理など、細部まで丁寧に仕上げることで、修理跡が目立たない自然な仕上がりを実現します。革の種類によって異なる質感・発色・吸収具合を見極めながら、塗料の濃度や塗り重ねの順序、筆の使い分けまで徹底的に調整。
目立たせない“さりげない美しさ”を追求しています。目に見える部分だけでなく、仕上がり後の使用感や経年変化までも想定し、長く愛用いただけるような補修を心がけています。お客様の想いや思い出に寄り添いながら、革本来の魅力を損なわないよう、丁寧に手をかけています。

Furubayashi

Q1. 修理において大切にしていることは何ですか?

修理では、ただ“きれいに直す”だけでなく、そのバッグに刻まれた時間や思い出を損なわないことを大切にしています。使い込まれた風合いを活かしながら、まるで初めから傷などなかったかのような自然な仕上がりを目指しています。
長く愛されてきた一品に、これからも寄り添えるような補修を心がけています。

Q2. 作業中に特に気を配っていることはありますか?

作業中は「仕上がったときに自然に見えるか」を常に意識しています。
光の当たり方や見る角度によって印象が変わるため、補色や艶の調整は一方向からだけでなく、複数の角度で確認しながら進めます。
手元の微調整が仕上がりを大きく左右するので、集中力を切らさず、一筆一筆に気を配っています。

Furubayashi

Q3. 印象に残っている修理エピソードはありますか?

母娘2代で大切に使われていたエルメスのバッグ。革はやわらかく変化し、角には深いスレもありました。本来であれば、新品のような美しい仕上げも可能な状態でしたが、お客様から「この風合いのまま戻してほしい」とのご要望をいただきました。
使い込まれた質感を活かして丁寧に補修し、「この感じが残っていて嬉しい」と喜んでいただけたことが、今でも心に残っています。

Q4. お客様から嬉しかった反応や言葉があれば教えてください。

「直ったのを見て泣きそうになりました」と言われたことがあります。
かなり使い込まれていたお気に入りのバッグだったようですが、「またこんないい状態で使えるなんて思ってなかった」と喜んでいただけました。
自分の手仕事が、お客様の思い出や気持ちをつなぐ役に立てたと感じた瞬間で、今でも忘れられません。

Interview 02 Ikeda

累計5,000点以上の補修実績を持ち、
クロコやボックスカーフなど高級素材にも多数対応。
風合いや艶、使用感を活かした自然な仕上がりに仕上げます。

Ikeda

これまでにエルメスのクロコダイルやボックスカーフなど、繊細で扱いの難しい高級素材を数多く手がけてきました。補修の際には革の表情や質感を丁寧に見極め、元の風合いを損なわず、できる限り自然な仕上がりになるよう心がけています。
艶の出し方や色の深み、手触りまで細やかに調整し、「どこを直したのかわからない」と驚かれることも少なくありません。バッグや財布には、お客様それぞれの思い出や時間が刻まれており、その想いに寄り添いながら作業を進めることを大切にしています。新品のように仕上げることも可能ですが、あえて“使い込まれた風合い”を残すことを希望される方もいらっしゃいます。
一つひとつに真摯に向き合い、また自信を持って使っていただけるような修理を目指しています。

Ikeda

Q1. 修理において大切にしていることは何ですか?

修理において大切にしているのは、仕上がりを見たお客様に安心と喜びを感じていただけることです。傷や色ムラをただ隠すのではなく、素材や使用感を見極めた上で、その品が持つ魅力を自然に引き立てるよう心がけています。
細部まで妥協せず、丁寧な作業を積み重ねることを常に意識しています。

Q2. 作業中に特に気を配っていることはありますか?

色の補修は、ほんのわずかな差が仕上がりを左右する繊細な作業。特に淡色や中間色では、塗り方・重ね方・筆の使い方ひとつで印象が大きく変わります。
修理したことに気づかれないほど自然な色合いに仕上げることで、品のある美しさを保ちつつ、お客様に「任せてよかった」と思っていただけるよう努めています。

Ikeda

Q3. 印象に残っている修理エピソードはありますか?

印象に残っているのは、ペン跡がついてしまったエルメスのバッグのご依頼です。「娘が描いてしまって…叱れなくて」と少し複雑なご様子のお客様。革の風合いや色味に合わせて丁寧に補色を行い、跡がわからないほど自然に仕上げることができました。
納品の際、「まるでなかったみたい。これでまた気持ちよく持てます」と笑顔でお話しくださり、こちらもとても嬉しくなったのを覚えています。

Q4. お客様から嬉しかった反応や言葉があれば教えてください。

長年使われていたバーキンのクロコダイル。色ムラや乾燥が目立ち、「もうダメかもしれない」と半ばあきらめて持ち込まれた一品でした。細かくヒアリングを重ね、「あの頃のようにもう一度使いたい」という想いに応えたい一心で、色味と艶感を丁寧に調整。
納品時、「まさかここまで戻るとは思わなかった」と涙ぐんで喜んでくださったお客様の姿に、職人としての責任とやりがいをあらためて実感しました。

エルメスやシャネルなどの補色を多数経験。
色味や質感の微差にも細やかに対応し、
革の上品さを損なわない補修を心がける。

補修の様子

エルメスやシャネルなど、ハイブランドのバッグ補色・補修を数多く手がけてきた職人です。
ブランドごとに異なる色味や艶、質感のニュアンスを丁寧に見極め、補修後も違和感のない自然な仕上がりを実現することを心がけています。特に、経年によって変化した革の風合いや色合いに対しても細やかに対応し、素材が本来持つ美しさを損なわないよう補色・補修を行います。擦れやくすみ、色ムラなども、革の状態を見ながらなじませていくことで、直したことを感じさせない仕上がりに。
補修後も「上品さがそのまま残っていて嬉しい」と言っていただけるよう、お客様の想いを大切に、一点一点に真摯に向き合っています。高い技術と丁寧な手仕事で、大切な一品に再び命を吹き込みます。

補修の様子